AIDEM 人と仕事研究所の取材記事欄「制度探訪」にNPO顧問 朴木佳緒留教授のインタビュー記事が掲載されました(2014.7)

女性教員の増加を目指す神戸大学の取り組み

~4年で、女性の採用比率1割アップ~

 

制度探訪では今まで、企業の事例を紹介してきた。今回は趣を変え、大学に目を向ける。研究者であり女性政策の専門家、加えて神戸大学において男女共同参画推進の実務経験を持つ学長補佐の朴木佳緒留教授に話を聞いた。(取材・文/水崎真智子)

     

「繰り返し多くの企業経営者から聞かれるのが、『優秀な人材がほしい』という声です。それが本心であるのなら、女性を活用しない手はありません」
  そう答える神戸大学学長補佐の朴木佳緒留教授は、研究のみならず、学内で男女共同参画事業を立ち上げ、推進してきた中心的人物だ。

 

 「これからの日本は、少子化で生産年齢人口は減る一方。優秀な人材を獲得するためには、女性抜きでは成り立ちません。従って女性にとって働きやすい環境を整え、出産や育児、介護などでキャリアを断念することのないサポートが求められています。わが国は、科学技術創造立国を目指し、科学技術の振興を強力に推進し、国力を高めていく政策をとっています。そのために大学においては、理系の女性研究者を育て、仕事と生活を両立できる環境を作ることが重要です」

 

理念を掲げ、目標数値を打ち出す

 

 2007年、神戸大学は「男女が対等な構成員として、研究、教育、社会貢献及び大学運営を行うことにより、男女共同参画社会の実現に貢献する」ことを学長宣言で謳い、具体的には、女性教員採用比率20%達成を目標に掲げた。

 

朴木佳緒留教授/専門は教育学(男女平等教育、ジェンダー学習論)
朴木佳緒留教授/専門は教育学(男女平等教育、ジェンダー学習論)

 神戸大学が、女性教員採用比率向上を具体目標に掲げたのは、次のような実態があったからだ。2007年当時、神戸大学の教員は全学でおよそ1500人、女性比率はわずか11.9%だった。ポジティブアクションによって、2010年には13%にまで在職比率を伸ばすが、日本のほとんどの大学同様、女性教員比率は決して多くはなかった。

 

 2010年の調査では、日本の女性研究者数は約12万人で、研究者に占める女性比率は13.6%だった。ちなみに各国の比率を見ると、アメリカは34.3%、ロシアは42.1%、イタリア29.9%、フィンランド29.0%、フランス27.8%、イギリス26.0%、韓国13.1%で、欧米先進国と比べ、日本の男女参画はかなり遅れた状態だ。2009年、国連の女性差別撤廃委員会による「総合所見」では、日本の性別役割分業は第1級の課題と指摘された。

 

理系研究者の驚くべき実状

 

 さらに深刻なデータがある。理系(理・工・農学)に限って見ていくと、女性活用どころか、男女平等とはほど遠い実態があった。神戸大学の理系教員総数は519人。そのうち女性教員は24人、在職率はわずか4.6%である。しかも女性教授はたった2人だ。

 

「もちろん、神戸大学が意図的に女性差別をしてきたわけではありません。しかし、結果として男女比の偏りがあまりにも大きかったのです」
 男女いずれかの性が40%より少ない場合、そこには何らかの問題が隠れており、女性差別撤廃条約では、その是正のためには暫定的特別措置を取ることは差別にあたらないとの趣旨が、述べられているという。

 

 そこで神戸大学では、女性教員の採用を倍増すべく、研究を中断した女性に正規雇用の道を拓こうと、学長裁量経費により期限付きの育成研究員の採用をはじめた。しかし、理系に限って言うと、神戸大学はプロジェクトの最初の3年間、女性教員採用比率をわずかしか伸ばせなかったという。

 

 なぜだろうか。研究者、なかでも理系の研究者には、業績とポストは一致するものであるとの考えが強く、それゆえ性差の意識が隠れてしまうことがあるという。例えば学術雑誌論文での引用頻度、つまりインパクトファクターなどによって業績は客観的に評価されており、その結果がポストである。従って、すでに男女の平等は達成されているとの見方が、女性を優先的に採用する心理的なバリアの1つであると朴木教授は言う。

 

 企業でも、業績や能力によってポストが獲得できるという成果主義や作り込まれた評価システムなどにより、すでに男女平等の場は実現しており、性差別はないと考えはしないであろうか。採用決定権者がこのような気持ちを抱いているとすれば、募集要項に「男女共同参画社会基本法の趣旨に則り、女性の積極的な応募を歓迎する」と明記しても、看板に文言を掲げただけのものになってしまう可能性がある。

 

インセンティブで女性研究者採用を加速

 

 研究者の採用は、企業の新卒一括採用とは異なり、1人ずつという手法の違いもある。そこで、女性研究者採用比率が思うように伸びないことから朴木教授たちは、インセンティブを用意した。具体的には、女性研究者1人採用につき、助教を別に1人5年間採用できる費用を本部で負担する仕組みを作ったのだ。

 

 ちなみに神戸大学では、採用にあたり「業績および資格に関わる評価が同等である場合には、女性を優先的に採用する」と教育研究評議会で定めている。やみくもな女性優遇ではない。

 

 2007年度からスタートしたポジティブアクションは、2011年に女性教員採用比率22.6%と当初の目標を達成し、現在はセカンドステージとして30%達成を目標としている。
 朴木教授に、プロジェクト成功のために重要なことを聞いた。
「目的を明らかにし、ぶれないこと。過渡期には納得できない人もいますし、利害もぶつかります。しかし、すべてを調整し、合意形成してからと考えては前進できません」

出典:アイデム人と仕事研究所 http://apj.aidem.co.jp/

(この記事は「アイデム人と仕事研究所」の許可を得て掲載しています)

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