AIDEM 人と仕事研究所の取材記事欄「これからの人材活用」にNPO顧問 朴木佳緒留教授のインタビュー記事が掲載されました(2014.9)

女性活用が進まない理由 ~推進のヒント~

 

企業が女性活用を推進するにあたり、知っておきたいことについて、神戸大学学長補佐の朴木佳緒留教授にお聞きしました。朴木教授は、男女平等教育とジェンダー学習論の研究者であり、女性政策の専門家であると同時に、神戸大学において男女共同参画推進の実務経験をお持ちです。(取材・文/水崎真智子)

 

■男女格差135国中101番目の日本

 

――政府が掲げる「女性の活躍推進」に呼応し、日本経済団体連合会が「女性活躍アクション・プラン」を公表するなど女性活用の推進が活発です。朴木先生はどのようにお感じですか。

 

世界経済フォーラムが毎年発表する世界男女格差年次報告書で、2012年に日本は135国中101番目でした。世界経済フォーラムは、日本の状況は尋常でないとの声明を出し、ジャパン男女共同参画タスクフォースの立ち上げまで行なったのです。

 日本の女性は高等教育への進学率が高く、能力が高いにもかかわらず、妊娠や出産で6割もの女性が辞めていく。この点だけ見ても、日本の状況は国際的に見て是正すべき状況にあります。
 日本を、50年、75年という期間で眺めれば、長い間、男性がポジティブアクションを得てきたような社会と言えます。長年の間に強固な男性優先の社会になっており、是正するためには単に女性の数を増やすだけでなく、働く環境や風土も一緒に変えていかなくてはなりません。
 

――能力があれば男女問わず登用すべき、男女共同参画は当然との声が聞かれます。

 

実力主義、成果主義は耳あたりの良い言葉です。この言葉をもって、「男女平等は果たされている、わが社は男女の処遇は同じ」と納得しがちですが違います。加えて注意が必要なのは、「男女問わず能力があるものを登用するが、能力のある女性がいなかっただけ」という理屈になっていないかということです。
 長い間、男性がポジティブアクションを得てきたとも言える日本社会で、すべての男性管理職が能力を伴った人ばかりでしょうか。なんでこの人が、という上司はいませんか。

 男女とも、ほとんどの人が管理職能力を初めから持っているわけではありません。能力はポジションを与えられ、後からついていくのです。女性はそのような管理職能力をつけていくようなチャンスが少ないので、ある時点で切ってしまうと、男性は意欲があるし管理職能力もある、女性は、比較の問題ですけれど、意欲はないし能力もないと見える。それは当たり前の話でしょう。女性はそのような育て方をされてきたのですから。
 長い間、男性優先だった社会を是正するのに、登用に注目するだけでは不足です。

 

 

■明文化されない企業文化にも目を向け男女同じ処遇を!

 

――教育も処遇も男女同じにということでしょうか。

 

 教育学で、インフォーマルエディケーション、ノンフォーマルエディケーション、フォーマルエディケーションという分け方があります。これを企業の人材教育にあてはめると、フォーマルエディションは、研修やOJTなどがあたりますが、最近では、男女同じになりつつあります。理由は、差別が見えやすいからです。それでも、まだ男女同じの人材教育を行なっていない企業はたくさんあります。

 先進的な取り組みをする企業でも、インフォーマルエディケーション、ノンフォーマルエディケーションにはまだまだ目が配られておらず、男女で違ってしまっています。

  

――インフォーマルエディケーションとは、メンター制度などで受け渡しされていく知見のようなものですか。

 

 そうです。業種や会社によって、何を教えるかは違っていますし、どこからインフォーマルになるかも変わってきます。例えると、仮に“あるパソコンソフトの入力の仕方”とします。「こうやって入力するんだよ」と教える。これはフォーマルです。手順はみんなに同じように教えるのですが、できない人がいたときに、「定時終了後にできなかった人はおいでよ、教えて上げるよ!」となるとインフォーマルになるのです。

 

 

――親切な先輩の、熱心な指導ということでしょうか。

 

 親切な先輩が男性の場合、将来の中堅に育てようと男性の後輩には親切にするけれど、女性はどうせ辞めるかもしれないと思ってしまうと親切の度合いが違ってきます。女性の6割が妊娠や出産を機に辞めていく現状があるからです。インフォーマルに行なわれる教育は、男女でまったく違うと私は見ています。

 

 

――ノンフォーマルとインフォーマルの違いはなんでしょうか。


 ノンフォーマルは、ノンですから、まさに無いわけです。日常の会話や、オールドボーイズネットワークと呼ばれる男性が中心となって培ってきた独特の文化や雰囲気、しきたり。明文化されていない組織のルールですね。このノンフォーマルエディケーションが女性にとって大きな障壁になっています。

 私は研究で、5年ほど前から公務員の職場のインタビュー調査をしているのですが、制度は男女同じとなっていても、管理職は男性が占めるのです。なぜそんな現象が起こるかというと、そもそも女性は一歩ひいてしまう。特に公務員の場合は、別に管理職にならなくても、一生仕事を続けられるし、やりがいもある。管理職にならないと恥ずかしいこともまったくない。

 そうすると、「なんで苦労して管理職になるの、ずっとこれでやっていけるのに」と女性は考える。女性は一歩引くのですね。一歩引くと、抜擢されないし、管理職になるための登用試験を受けないというわけです。

 

 

――意識せず今までの慣習の中で考えると、「管理職に挑戦しなくてもいいや」となりがちであるとのことですね。

 

 男性は、平社員で定年退職するのと、課長で、あるいは部長で定年退職するのでは、社会的には評価がどのように違ってくるかをよく承知しているのです。ところが女性は定年退職するときに平社員でも悪口も文句も言われない。むしろ、「お母さんよく頑張ったね、長年、ご苦労さん」と褒められるのですね。「なんでお母さんは係長にならなかったの」とはあまり言われない。

 大学を例に出すと、大学には職階がありますので、教授になりたいとは男女関わらずみんなが思います。ところが、大学の職階は教育研究の職階であり、管理は関係ないのです。学部長から上は管理職ですから、「学部長になっても研究は停滞するは、辛いことはいっぱいあるは、おもしろいことはなんにもないわ」というので、女性は意欲を持たないのです。ところが男性は学部長に意欲を持つ人は相当数います。

 公務員と大学の例だけですが、企業でもあてはまるでしょう。男性は挑戦意欲や上昇志向を持つのですが、女性には、そういったものを刺激される機会がほとんどないばかりか、むしろ挑戦しない方が楽と考えがちな状況にあるのです。

 また、男性は、ある程度の経験や能力を持つと、周りが押し上げます。登用試験を受けるよう促され、責任あるポストに推薦されもします。特別に意識せずとも行なわれてきたこういったことの中で、女性が自力で管理職へと意欲を持つのは相当な努力が必要でしょう。ですから、あえて女性を積極的に登用し、応援するのだという意識でちょうどいいのです。

 

 

――経済状況が厳しい折り、逆差別だとの声が聞こえそうです。

 

 世界経済フォーラムで声明が出されたように、日本の状況は尋常ではありません。長い間、男性がポジティブアクションを得てきたような社会であったことをしっかり認識することですね。ある時代の瞬間を切り取れば、男性優遇、あるいは女性優遇が見える時期があるでしょう。その瞬間にこだわり、改革が進まなければ何も変わりません。

 

●朴木佳緒留(ほうのき かおる)
神戸大学大学院人間発達環境学研究科教授。専門は教育学(男女平等教育、ジェンダー学習論)。男女共同参画担当・学長補佐。神戸大学男女共同参画推進室の初代室長。110年の神戸大学史のなかで初めての女性学部長・研究科長。 

出典:アイデム人と仕事研究所 http://apj.aidem.co.jp/

(この記事は「アイデム人と仕事研究所」の許可を得て掲載しています)

 

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